ニューワールド!1

「コホッ、コホッ」ジロー・マケイン牧師は軽い咳をした。
「大丈夫ですか牧師様、あまり無理をなされては体にさわります」
サー・トーマス・ナウリバー卿は心配そうに声をかけた。
トーマスは植民領スルガーの統治官であるナウリバーの一族である。
ここオワリーは統治官シバ家が管轄していたが、貿易の利益配分の問題で
ナウリバー家と対立して抗争を起こした末敗北し、損害賠償として、この
ナゴノー城および、その統治領をナウリバー家に割譲したのである。
ジローはその地区に設置されたプロテスタント教会の牧師、イチロー・マケインの息子であり、
彼自身も牧師であった。
イチロー・マケインはアイリッシュであったが、この新大陸・アトランティスに神の教えを広めるために
渡来したさい、難病にかかり、たまたま通りかかった忍者ナカムラに秘伝の薬をもらって回復した
事に感謝し、以後、ナカムラにもらった日本名、イチローを名乗っている。
息子のジローもナカムラの一族から名前をもらっている。
「どうでしょう、今日のポエムの会はこれでお開きにしては。あまり無理をされてはいけません」
心配そうにトーマスが言った。
「そうですね。マイリバー卿と親交を深めるポエムの会は楽しみにしていたのですが、
あまり無理をしすぎてかえってマイリバー卿を心配させてはお気の毒です。今日のところは
お暇いたしましょう」
「どうかお大事にしてください。あなたは貴重な心の友なのですから。最近のスルガーでは
統治官の弟で無神論者のコア・ジャスティスが権力を持っており、信仰者たちは身を
縮めて暮らしております。私がこの地に赴任して来たのも無神論者たちの横暴に
辟易したからなのです」
「そうでしたか、こうやってマイリバー卿とお出会いできたのも神のお導き……」
ジローはそう言って椅子から立ち上がろうとしたさい、立ちくらみをして床に倒れた。
「大丈夫ですか、牧師様!」
トーマスが慌てて駆け寄り、ジローを抱き起す。
「申し訳ありません。じつは私は不治の病にかかっており、もう寿命はいくばくもないのです。
どうか家人を呼んで最後のお別れをさせてください」
「わかりました。誰か、外で待機している教会の自警団の方たちを城の中へ!お父上のイチロー様も
早馬を飛ばして呼んでくるのだ」
「いけません、トーマス様、アツター教会はプロテスタントの者たちであり、私たちカソリックに対して
敵意を持っております。中に入れては危険です」
騎士団長が顔を引きつらせながら言った。
「何を言うか!神を信仰する者にカソリックもプロテスタントもあるものか、早く、自警団を中へ」
「チイッ」
騎士団長は苦渋の表情を浮かべた。
「外で待機しているオワリーの住民たちを中へ」
騎士団長叫んだ。
「しかし、連中はプロテスタントです」
「トーマス様のご命令だ」
「ははい」
門番が躊躇しながらも門を開ける。
「どうかなさったのですか」
住民の先頭には黄色人種の男が立っていた。
「なんだこいつは」
騎士団長は露骨に不快そうな顔をする。
「なんだ、お前は、アラブ人か」
「いいえ、私は中国人のリン・テイと申します。ジロー牧師の教えを受け、
アツター教会におもむき、信徒になりました」
「そうか、ではここで誓え、イエス・キリストに誓って、城の中では暴虐を行わないと。
プロテスタントに仇をなさないと、誓え」
「はい、イエス・キリストに誓って」
リンは跪いて指を組んで祈りの姿勢をとった。
「ジロー牧師がのご病気が重篤だ。中に入って最期のお別れをしてさしあげよ」
「はい、ありがとうございます。神に感謝します。神に感謝します。偉大なる我が祖国の神、
天帝に感謝!」
いいざま、リンは騎士団長の背中を短剣で刺した。
「な何っ!」
騎士団長が目を見張る。
「バカめ、俺の信仰は道教だ」
「だましたな!」
「だましてはおらぬ。俺がアツター教会に通ってジロー様と城乗っ取りの計画を立てたのも事実だし、
道教の信徒になたのも事実だ」
「おのれえっ!」
叫びながら騎士団長が倒れる。
「ゆけっ!われらの奪われた大地を取り戻すのだ!すまし顔のブリティッシュどもを蹴散らすのだ!」
リンの叫びとともに手に手に鍬や鎌をもったアツターの自警団が城の中になだれ込む。
不意をつかれ、騎士団長を失ったナウリバーの軍勢はあっという間に総崩れとなった。
「お、おのれ!同じ信仰者である私を騙したな!神が許しにならないぞ!」
「黙れ!太平洋に突如としてこのアトランティスが出現して早数百年。一番最初にこの地に
上陸したインデオたちの土地を奪い迫害してきた無法者どもが何を神の言葉を語るか!」
縛りつけられ、ジローを非難するトーマスをジローは嘲笑した。
「こいつ、どうやって処刑しましょう」
褐色のたくましいからだのインデアンがジローの前に現れる。
「ひいっ!インデアン、頭の皮をはがれる!」
トーマスが恐怖の声をあげる。
「バカめ、インデアンが頭の皮を剥ぐのは、お前ら略奪者がインデアンの骨でナイフの柄を作ったりする
事への報復だ。普通に付き合っていれば、彼らはよい友人だ」
不快そうな表情でジローが言った。
「こんな中国人やインデアンなどを味方に引き入れよって、スコティッシュのアナグマどもめ!」
「ほうら、本音が出た。お前らブリティッシュどもはそうやってアイリッシュやスコティッシュを見下してきたのだ。
私たちも彼らもお前たちに搾取されて延々と搾取されてきたのだ」
「私をどうするつもりだっ。殺すのか!」
ジローは無言のまあトーマスの鼻先に剣をかざす。
「ひいっ」
トーマスは小さく悲鳴をあげた。
「はははっ、お前は私に情をかけてくれた。また口先だけで人権をさけぶ偽善者の無神論者どもとも違い、
信仰心も持っている。よって命ばかりは助けてやるからどこへなと行くがよい」
ジローはトーマスの縄を剣で切り、革袋に入った銀貨30枚を目の前に投げ落とした。
「お前はすでにマイリバー家にとって敵に城を明け渡した裏切り者だ。この銀貨30枚をもって
どこへなと行ってひっそりと暮らすがいい」
トーマスはその銀貨30枚を握りしめ、すごすごと城の外へ出ていった。
「さあ、もう私たちを苦しめていた圧制者はいないぞ!もうイギリス本国へ茶葉を送り続ける労役も終わりだ!
今からアツター港へ行くぞ!」
ジローは叫び、そのままアツターの港に行き、マイリバー家所属の紅茶船を乗っ取り、その船に乗っていた
積荷の紅茶を全部海に投げ捨てた。紅茶が溶け出したアツター湾の海は真っ赤に染まった。
それが、アツター港がのちにホットベイと呼ばれる所以である。

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この記事へのコメント

2015年07月20日 10:29
迷いを振り切り初コメント残させてもらいましたヽ(*’-^*)。
こんなにドキドキしてるのは久しぶりです(汗)
実は…ここの所ずっと気持ちが落ちてたんです。
でもここに辿りつけてブログを読んでいたら、気分転換出来たのか少し気持ちがスッキリしました(*ロ′∀`b)

今までの私は余裕が無さ過ぎて、こうじゃなきゃダメなんだって自分のこと縛ってた気がするんです。
でも私は私なわけで誰かの型に惑わされ過ぎていたのかなと思えました^^
本当にありがとうございますo(^◇^)o

maki2.co@i.softbank.jp(@は小文字にしてください)

もし…よかったら少し私の悩み聞いてもらえないでしょうか?あまり友人もいなくて中々意見を聞ける機会がないんです。
迷惑でしたらすみません。このコメント消してしまってください。

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